早くも1ヶ月が経ってしまいましたが、講演「うんこはごちそう」&災害トイレ術ワークショップの様子をご報告したいと思います。
◆講演「うんこはごちそう」
回を重ねるごとに内容がグレードアップしていく伊沢さんの講演会は、主催者の自宅リビングを会場に、文字通りアットホームな雰囲気でスタートしました。
図鑑にも多用されるほどのキノコ写真家だった頃に見出した、自然の循環。上から見下して撮影していては気付けなかった菌類の尊さは、カメラを地につけ、下から尊敬の念を持って見上げる撮影へと、伊沢さんを変化させたそうです。
美しいキノコのスライド写真を見ながら、話は生態系から外れてしまった人間へと移りました。
野糞はなぜいけないのか。自然の循環と、人としてのマナーを両立させた伊沢式・埋める野糞について。そして、どのように微生物や菌類が分解していくかの“掘り返し調査”で、時系列の変化を学びました。
きれいでさわやかな“うわべだけのエコロジー”とは違う、生き物の本質的な行動として「排泄」をまっすぐに見つめる伊沢さんならではの、生物界の仕組み論が光ります。
例えば、記事冒頭の水中の写真は、人間が見ると「きれい」「光合成で酸素を出しているんだな」と感じますが、当の植物としては「排泄をしている」に過ぎない。つまり、どの生き物の排泄物も、他の何かの生き物が必要としているのだ、ということでした。
お昼休みも話は尽きず、様々なバックグラウンドを持つ参加者のみなさんと四方山に語り続けました。
◆フィールドワーク「葉っぱの世界・微生物の世界」
午後は外に出て、まずは“お尻を拭く葉っぱ”という視点で、身近な植物たちを見ていきました。(※トイレットペーパーやティッシュは、化学薬品を使って作られているためなかなか分解されず、伊沢さんは葉っぱを推奨しています)
ガーデニングから大繁殖して一大群落になりやすいミント類。束ねて使うと清涼感のある拭き心地で、「デザート扱いです」とのこと。
耕作放棄地などに繁茂する葛(クズ)の葉は、ゴワゴワと硬くて使えない…と思いきや、クズの枯れ葉が雨や夜露で湿ったものは、まるで極上のしっとりティッシュ。見つけてビニール袋に入れて持ち歩けば、しっとり柔らかいまま使えて便利なのだそうです。
では、こんな小さな草がほわほわと生えているだけの原っぱで、急にもよおしてしまったら?
そんなときは小さい草たちをむしり集めて“草玉”を作って拭くといいんですって。小さいお子さんをお持ちの方には特に役に立ちそうですね。
タンポポの花を複数集めるのも優しい拭き心地だそうです。
ススキやチガヤの穂は、開ききる前の、触れても種が飛ばない段階のものを選んで数本重ねて使います。
こんな形状でも大丈夫。葉が平らな面になっていることに着目して、いくつか重ねて使えば案外しっかりしているのだそう。
庭石などに生えているコケを崩さないようにはがして、水をかけて絞ると、まるでウエットティッシュ。お尻が敏感な人や女性にもおすすめとのことでした。
他にも、枯れたミョウガの葉が夜露で湿ったものや、日陰で育ったカラスウリの柔らかな葉っぱ、クサイチゴの葉は裏の棘を爪でしごいて取り除けばなかなかの使い心地…といった具合に、身近な植物をお尻拭きの観点でどんどん紹介してくださいました。
◆微生物による分解の威力を知る「掘り起こし」
多様な雑草がひしめく自然農の畑に到着しました。農薬や肥料を使わず、トラクターで耕運したり踏み固めたりしていない自然農の土には、自然の野山に限りなく近い微生物層が保たれています。
ここで、微生物がどれだけ野糞を分解しているのか、今回の企画のために埋めた野糞の数々を掘り起こしてみました。この畝には約1ヶ月前から、数日おきに大人や子供の野糞を埋めて記録をつけてあります。
伊沢さんは、野糞を埋めた場所には木の枝をこのように立てて目印とし、他の人が踏まない、同じ場所に再びしない、を提唱しています。生態系にも人にも配慮した手法なのですね。
3週間が経過したものは完全に分解されて、腐葉土の香りで、「うんこ=汚い」のイメージを覆す豊かさを感じさせてくれました。6日前のものでも想像以上に分解が始まっており、掘り返さないほうがよいレベルは2〜3日前のもの、という結論が出ました。
◆全く匂わない「バイオトイレ」
続いて、自然農の畑にある手作りのバイオトイレをみなさんに見ていただきました。自然の循環を意識した、環境に負荷をかけないバイオトイレを模索した結果、利用者の安心や快適さも叶えられるティピ風の建物と、洋式トイレ型の便座のバイトトイレが生まれました。
一年単位で場所を移動して作り直す、簡易バイオトイレ。土の微生物に分解してもらうシンプルな作りながら、登山道などにあるハイテクバイオトイレで感じる悪臭もいっさいなく、快適な空間になっています。
ここでも、微生物の大切な働きを実感することができました。
◆伊沢流インド式野糞法
バイオトイレの後は、伊沢さんが編み出した「伊沢流インド式野糞法」を紹介していただきました。使うのはとても小さなスコップ1本と、水を入れたボトルだけ。
葉っぱで拭き、仕上げに水を使うのが一番いいとおっしゃっていました。なるほどインド式ですね。(※詳しくはこちらのサイトを参照 正しい野糞の仕方)
◆ワークショップ「災害トイレ術」
“誰かが”野糞をしている話を聞くのと、“自分が”トイレがなくなったらどうするか考えるのとでは、大きな違いがあります。そこで、災害トイレ術ワークショップでは、「今の暮らしの中で災害に遭い、トイレが使えなくなったらどうするか?」を各自で考え、発表していただきました。
手を動かして描くのもポイントです。実際の自分事として、思いを巡らせながら描いたみなさんの災害トイレ術。
「家族が協力してくれるように…」「林がアパートから近いから…」「斜面の緩やかな竹林があるからそこで…」など、それぞれの生活に基づいた想定で、様々な案が発表されました。
発表後にも意見交換、質問があちらこちらで交わされ、陽が落ちるまでなかなか解散になりませんでした。
駐車場でもまだ話は尽きず、月が昇ってくる頃にやっとそれぞれが家路につきました。
誰もが今の暮らしにわずかながら疑問を持ち、より持続可能な暮らし、自然に寄り添った暮らしをできる範囲から模索している、そんな風に感じた1日でした。参加されたみなさま、ありがとうございました!
つくばで持続可能な社会を考えるプロジェクト「つくサス」は、これからも“持続可能”をテーマに様々な企画を行って参ります。これからもどうぞよろしくお願いいたします。